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 甘える男たち  - Essay - vol.3  …by千住沙良
■ カメレオン男

 
恋にめでたく勝利して結婚に至ったとしても、それが必ずしも幸せとは限らない。
自分が身を置く場所によって、その色をくるくる変える、カメレオンような男がその相手だとしたら・・・。

先輩のYさんは一流企業の管理職。女性のエスコートも上手くて、紳士という言葉がぴったりのクールな二枚目である。美しい奥さんとも仲睦まじく、私たち後輩の目には理想的なカップルと映っていた。
そんなYさんの秘密を私が知ったのは、ちょっとした誤解からだった。

ある日、奥様への用事でYさん宅へ電話をした時のことである。
留守だった奥様の代わりに、Yさんと映画の話で盛り上がっていたのだが、ちょうど映画化された、とある小説の話をしたら、Fさんがさも意外そうに言った。
「へえ、君もジョルジュ・バタイユなんて読むんだね。そういうの、好き?」

その作家は過激な描写のSM小説で有名なのだが、私はあまり気にもせず、Yさんの問いに「ええ、好きですよ」と答えると、その途端、Fさんの態度が変わった。
「君は、誰かに恥ずかしいところを見られたり、縛られてみたいと思う?」
柔らかいが否を言わせない調子で、セクハラまがいの質問を矢継早にしてくる。
ヤバイ!曖昧に答えを返しているうちに、完全にYさんのペースに乗せられて、気がつくと奥様には内緒のデートの約束をさせられていた。

私は、奥様に後ろめたさを感じながらも、待ち合わせの喫茶店に行ってしまった。
Yさんは「君がそうだったなんて知らなかったよ!」と笑顔で私を迎えると、傍らに置いた鞄の中から嬉しそうに分厚いアルバムを取り出すと、私に差し出した。
「僕の作品を見て欲しいな。君もきっと気に入ると思うよ。」
そのアルバムにぎっちり貼られていたのは、縛られたり吊されたりした、女性のヌード写真。私は、誤解です、私はその趣味は無いんです、と言うきっかけを失って曖昧に笑いを返すことしかできなかった
「皆、素人の子たちばかりなんだ。素のままの痛そうな表情がいいだろう?」

Yさんは、女性に、縛っていい?もう少しきつくてもいい?ロウソクはOK?と確認を取りながら縛るそうである。ちょっと情けない感じだが、その方が初心者の女の子は安心するのだそうだ。中にはプレイに及ぶ女性もいるが、写真撮影だけのSMメイトも沢山いて、僕はプラトニックだよとおっしゃるのだった。
「妻も、この僕の趣味のことは知らないんだ。君と僕だけの秘密だよ。今度、君の写真を撮ってみたいな。あんまり痛くしないから大丈夫。」

結局、怖じ気づいた私はモデル役を丁重にお断りしたが、日頃のクールな紳士ぶりはどこへやら、喜々として語り続けるYさんの、あまりの豹変ぶりに、私はただただ唖然とするばかりだった。

次の週、Yさんの奥様から電話がかかってきた。Yさんに内緒で会いたいという。
一番マズいシチュエーション。どう言い訳しようと考えながら行ってみると、ドレスアップした奥様の後ろには、スーツ姿の青年が背中を見せていた。
「ねえ、今晩これからずっと、あなたと私、会ってたことにしてくれない?実はね、今晩お友達とお食事なんだけど、主人に誤解されたくないの。ね、お願い!協力してね。」もちろん、私に嫌と言えようはずはなかった。

そう、カメレオン男に対抗できるものは、やっぱりカメレオンなのだった。

 

【プロフィール】
千住沙良(せんじゅさら)
リライター。企業社内報などの編集の傍ら、ミニコミ制作も。
多数の失恋経験をもとに、男性分析のため、今回、エッセイに挑戦。
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